えこーのぶろぐ

バタフライ法律事務所です

略式起訴

mainichi.jp

 

こんなものを見つけました。

coinhiveの件は僕の周りでは割と議論になってる気がします。

耳に入ってきた限りでは、「限りなく黒に近いグレー」という声もあれば、「これがだめならjava scriptで動いてる広告は全部ダメになってしまうのでは」というような声までありました。

 

Coinhive設置で略式起訴の男性、正式裁判へ | 仮想通貨 – AppTimes

神奈川で6月に起きた件に関しては現在正式裁判が行われているようで、法的にどうみられるのかはそこではっきりするのではないかなと思います。

 

coinhiveの件について、僕の考えがないわけではないのですが、今日は視点を変えて、「そもそも略式起訴ってなんぞや」ということを書こうかなと思います。

 

書いてみて結構長くなってしまったので,皆さんのスクロールの手間を省くため,先に結論を書いておきます。

  1. 略式で決まった刑でも前科は前科
  2. 略式手続は裁判にかけられる人の同意がないと行うことができない
  3. 同意をすると書類だけの簡単な手続きで罰金刑が科される
  4. あとからやっぱり正式な裁判をやってほしいといえるのは14日間だけ

 

 

 

1 そもそも略式手続とは

 略式手続は、刑事訴訟法461条以下に規定されています。

 内容をものすごく噛み砕いて説明すると、「争いがない事件について、書面だけで処罰を判断しよう」というものです。

 略式手続については、書面審理だけで行われるため、公開の裁判が開かれません。これが憲法違反ではないかというような議論がなくはないのですが,脱線してしまうので,気になる方は調べてみてください。

 書面審理だけで刑罰を科すという制度であるため,略式手続によることができる場合というのは限られています。具体的には,100万円以下の罰金・科料を科す場合に限られています(刑訴法461条)。

 

2 略式手続の流れ

⑴ 前提知識

ア 起訴権者

 まず,前提として,刑事裁判を起こすのはだれなのかという話をします。

 ある人(刑事裁判にかけられる人のことを「被告人」といいます。)を刑事裁判にかけるよう求めることを,「起訴」といいます。これくらいならニュース等で聞いたことがあるかもしれません。

 起訴は,原則,検察官が行います。これは,公開の法廷で行う場合も,略式手続の場合も同じです。

イ 捜査と終局処分

 検察官の仕事についても簡単に紹介します。ただ,僕は検察官ではないので,ばっちり正確に説明できていないかもしれません。

 検察官は,①起訴のために必要な捜査の指揮をとったり,起訴のために必要な書類を作ったりします。また,起訴後,②刑事裁判の際は,被告人が行ったとされる犯罪についての立証や,どのような刑罰を科すべきかということについての意見を述べたりもします。さらに,③裁判で決まった刑罰の執行についても検察官が行います。

 今回関係するのは,①なので,①について簡単に説明します。

さっき書いた通り,最終的に起訴をするのは検察官なので,検察官は自分が起訴できると思えるようにするために足りないものは何かということを考えながら,警察に捜査を行うようお願いしたり,自分で捜査(多くの場合は関係者の事情聴取です。)を行ったりします。

そして,最終的に,証拠がそろったと考えると,書類を作って起訴をします。

これが,検察官の仕事のうちの①の部分です。

⑵ 略式手続によることの決定

 それでは略式手続の話に入っていきましょう。

 検察官は捜査を遂げ,ある被疑者(起訴される前は「被告人」ではなく「被疑者」という呼び方をします。)を起訴することにしました。

 しかし,起訴して刑事裁判にかけるとなると,被告人をわざわざ平日の真昼間に裁判所まで来させて,1時間くらいかけて裁判をすることになります。しかも,裁判所なので公開です。誰でも入ってこれますし,人定質問といって名前,住所,生年月日や職業の確認もされます。もちろん顔も見えます。

 自分が衆目にさらされてしまうのですから,人によっては,ひょっとすると罰金刑を払うよりもつらいことかもしれません。

 そこで検察官は,特に犯罪をしたことについては争っていなくて,しかも100万円以下の罰金・科料を科すことになると思った場合には,略式手続によることを考えます。

⑶ 略請け

 検察官は略式手続を使おうと決めました。そうすると次に必要なのが略請けです。

 略式手続は,さっき説明したような公開裁判による弊害を防ぐことができます。しかし他方で,略式手続は,刑罰を科される人の「公開の法廷で刑事裁判を受ける権利」を奪うものでもあります。これは憲法上の権利であり,とても重要なものです。そのため,検察官は,略式手続で刑罰を科すことについて異議がないことを確認した上で,そのことを書面にする必要があると定められています(刑訴法461条の2)。

 実務上は,この書面のことを,「略請け(りゃくうけ)」と呼んでいます。

⑷ 略式命令の請求

 今までずっと略式手続と言っていましたが,正確には略式命令の請求です。

 被疑者に略式命令の概要を説明して,略請けに署名や押印をもらった検察官は,起訴と同時に,簡易裁判所に対して略式命令を出すよう求めます。

 これが略式命令の請求です。

⑸ 略式命令の交付

 略式命令の請求を受けた裁判所は,検察官から送られてきた書類を見て,犯罪についての立証が足りているのか確認します。その上で,問題ないと判断した場合には,略式命令を出します。

 略式命令には,主文(被告人にいくらの罰金を科すのか),罪となるべき事実,適用した法令などが書かれます。

 略式命令は,起訴があった日から数週間から1か月ほどで被告人の自宅に郵送されます。

⑹ 罰金の納付

 略式命令を受け取った被告人は,それをもって検察庁へ行き,決められた罰金を納付します。

 これで略式手続はすべて終わったことになります。

 

 最後に

以上が略式手続の概要です。

 

 しかし,最後に重要な話が残っています。

 一つ目は最初にも書きましたが,インスタントな手続きであるために意識しづらいのですが,略式命令であっても,前科は前科なのです。前科があって困ることというのは実はそれほど多くはないのですが,有罪の宣告があってから一定期間就くことができない職業などもあります。そういう人にとっては前科がつくというのは一大事です。

 

 もう一つも最初に書きましたが,略式命令を受け取ってから(厳密にいうと「告知があってから」)14日以内であれば正式裁判を求めることができるということです。

 

 検察官というのは頭のいい人たちです。検察官と話をしたときは略式手続に納得できていたとしても,あとで考えるとやっぱり納得できないということもあります。また,あとで弁護士などに相談したら,あなたのやったことは犯罪に当たらない可能性がありますよ,となってしまうこともあります。その場合でも,14日以内でないと正式裁判に移行できないのです。

 14日を過ぎると今度は再審請求を行うほかありません。再審というのは,一度やった裁判をやり直すわけですから,よっぽどのことがない限り認められないとてもハードルの高いものです。

 

 いざ,自分が起訴されるとなると,正常な判断ができないものです。普段から知識を身に付けて置き,刑事事件の被疑者になってしまったらとにかくいち早く弁護士を呼んだほうがいいです。弁護士がついたことで状況が悪化するということはほとんどありません。むしろ時間がたってから弁護士がついても,その時には取り返しがつかないということの方が多いのです。

 

 こんなクソ真面目で長いだけの文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。読んでもらえたなら書いた甲斐があるというものです。お友達にも紹介して,いざ自分が起訴されても大丈夫なように普段から備えておきましょう。